神鳥の卵 第8話


ごきゅごきゅごきゅと、小さな手で哺乳瓶をしっかりと支えながら、無心にミルクを飲むルルーシュを腕に抱いて、スザクは幸せそうな笑みを浮かべた。

「枢木、気持ち悪いぞ。ニタニタ笑うな」

心底嫌そうな顔をしてC.C.が言った。
どうやらルルーシュがスザクからミルクがほしいと意思表示をしたことが気に入らないらしい。
反対に、ルルーシュを取り戻した上にミルクを上げることが出来たスザクは上機嫌だ。
それが更にC.C.の苛立ちを煽る。
そんな無言の攻防が続いていたのだが、やがてルルーシュは、ぷはぁと哺乳瓶から口を離した。どうやら満腹になったらしく、スザクは手早くゲップをさせた。
空腹が満たされ余裕ができたからなのか、どこかきりりとした表情で、「スザク、なかなかミルクを飲ませるのが上手いじゃないか」と、ルルーシュはご満悦だった。

「ほんと?良かった」

スザクはそんなルルーシュに心からの笑みを向ける・・・のだが。

「お前達、いい加減そのやりとりに疑問は感じないのか?」

冷めた眼で見ていた魔女が冷めた声でツッコミを入れた。

「疑問って?」

スザクは首を傾げながら尋ねた。
スザクに抱かれているルルーシュも、コトリと首を傾げる。
ああくそ、童顔とはいえ、いい年をした枢木は首を傾げたところで腹立たしいだけで可愛くもないが、ルルーシュが可愛すぎると、C.C.は素早く小首を傾げたルルーシュの写真をとった。

「くっ、もっと画質の良い携帯にするんだったか」

この携帯の画質だと、パソコンに転送したら荒いんだ。

「あのねぇC.C.、気持ちはわかるけど、間違っても外部にその写真流したら駄目だからね」

その携帯、ルルーシュが改造済みだからウイルス関係は大丈夫だと思うけど。
万が一外部に流れれば、間違いなく騒ぎになる。
咲世子でさえ勘違いしたのだ。
悪逆皇帝ルルーシュの落し胤なんて噂が広まったら困る。
・・・咲世子じゃないんだから、スザク・・・いや、ゼロを女だと思うものはいないだろう。
ということは、十中八九、産んだのはC.C.という事になりそうだ。
それはつまり、ルルーシュとC.C.がそう言う関係だったのだというアリもしない話が広まることにも繋がる。
最悪なことに、ゼロの愛人として彼女は有名だった。
ゼロ=ルルーシュと知っている面々は本気で信じるだろう。
たとえ噂だとしても、それは許さない。
メラメラと嫉妬心むき出しで睨むスザクを横目に見ながら、C.C.は手慣れた操作でデータを転送した。

「ああ、解っているさ。私専用画像だ。誰にもやらないさ」

私のパソコンに送るに決まってる。
もちろんルルーシュが用意したものだから、こちらも高いセキュリティが施されている。そこにしか送らないといえば、スザクは不愉快そうに眉を寄せた。

「冗談。僕にも転送してよ」

何独り占めしようとしてるんだよ。

「それこそ冗談だろう?なぜお前に渡さなければならないんだ」

これは私のものだ。

「いいの?そんなこと言って。今後ルルーシュは僕とずーっと一緒にいるんだよ?僕や咲世子さんが映すルルーシュ、欲しくないの?」

ルルーシュと暮らす。
その言葉に魔女はぴくりと反応した。

「・・・私もここで暮らすか」

基本放浪生活の根無し草だが、ルルーシュがいるならば、以前のように一処に留まるのも悪くはない。ルルーシュがいるのならな。

「やめてよね。変な噂が立つだろう」

それでなくてもゼロの愛人とか言われてるだろ君は。
あれ、嫌なんだよね。
前はルルーシュの、今度は僕のってことだろ?冗談じゃないよ。

「咲世子は良くて私は駄目だというのか」
「大体君が居るとピザ臭くなる。ピザ臭いゼロとか駄目だろ」

ね、ルルーシュ。
するとルルーシュはコクコクと「スザク、お前の気持はよく分かるぞ!」と言いたげに頷いた。寧ろ同士を見つけたかのように眼がキラキラしている。
だよね!と、スザクも満面の笑みで見つめ返す。

「それだ」

C.C.はルルーシュを指さし、そういった。

「何が?」
「だから、それだ」

それと言いながらルルーシュを指差すので「それって、俺のことか!俺はそれ扱いなのか!」と憤慨していた。

「だからその、ルルーシュは何一つ話していないとうのに、何故か会話が成立している状況に、いい加減疑問を感じないのかと言っているんだ」
「何一つ話してない?」

スザクはそうだっけ?とルルーシュを見「そうだったか?」と、ルルーシュもまたスザクを見た。

「・・・」
「・・・」
「あ!君!声出してないよ!ってか、君話せないじゃん!」

最初の時話そうとして、僕の名前呼ぶのに苦労してたじゃないか!
そのスザクの言葉にルルーシュはハッとなり「そういえば俺は声を出していないぞ!」と目を見開いた。

「ようやくわかったか、このバカどもが」
「ちょっとC.C.、僕を馬鹿にするのはいいけど、ルルーシュを馬鹿にするのはやめてよね!」

むっとした表情で文句をいうスザクにルルーシュは驚きと喜びの入り混じった視線を向けた。スザクはそんなルルーシュに、ニッコリと笑みを浮かべ、その柔らかな髪を梳いて、頬をなでた。

「君は馬鹿じゃないよ。大体、こんな状況なんだから、わからないのが普通だよ」

ルルーシュはキラキラとした瞳でスザクを見上げた。

「って、そうやって自分の株を上げることに専念するな!」

絶対ルルーシュの好感度上げを狙ってるだろお前!
ルルーシュも騙されるな!!

「そういうこと言わないでよね。まるで僕が裏表ある人間みたいじゃないか」

ルルーシュをギュッと抱きしめ、自分の表情が見えないようにしてから、スザクは声はそのままに、C.C.をじろりと睨んだ。
その表情はナイトオブセブンだった時のスザクを思い出させるもの。
並の人間なら恐慌に落ちかねないほどの凶暴さを秘めた死神の眼差し。

「お前の裏表は二重人格レベルだろう」

ルルーシュの前と私の前ではぜんぜん違う。

「そんなことないだろ、ねぇルルーシュ」

そう言いながらルルーシュを伺うが、目を合わせてくれない。「・・・」と、完全に黙秘状態である。

「ちょっと、そこで黙らないでよルルーシュ!」

ぼく凹むよ!
実際に二重人格っぷりを何度も目の当たりにしている上に、今、スザクは声は穏やかではあったが、冷え冷えとした殺気をC.C.に向けていたため、ルルーシュはスザクがどんな表情をしていたかお見通しだった。
慣れ親しんだその殺気に、神根島でのトラウマも思い出したほどだ。
C.C.の言葉を肯定するようなルルーシュの反応に、スザクの眉はみるみると下がった。

「ルルーシュぅ・・・」

しょんぼりとした顔で名前を呼ばれればルルーシュは弱い。慌てて「そ、そうだぞ。お前は裏表のある性格じゃ・・・ない・・・と、思いたいが」と、歯切れの悪い事を言う(喋ってない)ものだから、スザクはしょんぼりと俯いた。
そんな姿に益々ルルーシュは慌てて「たとえどんな性格でもスザクはスザクだ」と、いう目で見れば、スザクはぱあっと明るい表情になった。

「そうだよね。どんな僕でも、僕は僕だよね。それに僕は君の唯一の騎士だよ!ね、ルルーシュ」

ルルーシュは再び目を逸らした。

「ええ!?なんで目を逸らすの!こっち見てよルルーシュ!!」

そこは否定しないで!と、スザクは本気で涙目になりながらルルーシュに訴えた。

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